憲法が危ない!第4弾

緊急事態条項が通ってしまった未来からの伝言

2016年2月22日



  内山 宙さん(弁護士)

 憲法が改正されたころ、私はまだ高校生になったばかりだった。改正案の内容は、私が中学で習っていた憲法の原則からすると、ちょっとおかしいんじゃないかと思ったけど、選挙権のない自分には何もできなかった。
 そして、18歳になったら選挙に行くものだと思っていたのに、今は選挙はほとんど実施されていない。憲法が改正されて、緊急事態条項というものが入ったからだ。

 緊急事態条項が通って直ぐに某国がミサイルを発射しようとしているということで騒ぎになった。総理大臣が緊急事態だとテレビで宣言していたが、緊急事態にしては、記者会見の演出がやけに準備周到だったことが印象的だった。そのミサイルは、結局衛星軌道に乗ったそうで、人工衛星だったんじゃないかと言われていた。それで、緊急事態の宣言をした根拠を出せと野党が追及していたけれども、緊急事態宣言について国会の承認を得る期限が決まっていなくて、首相はなかなか国会承認の手続を取ろうとしなかった。とはいえ、100日を超えて継続する場合に国会の承認を得なければならないということになっているので、さすがに100日になる前に事後承認の手続を取ることになった。しかし、緊急事態宣言の根拠となる事実関係自体が特定秘密に当たるということらしく、防衛省が「我が国の安全保障に著しい支障を及ぼすおそれがある」と言って、資料は国会には出てこなかった。
 そして、緊急事態宣言は、与党が過半数を占めている衆議院で承認されてしまった。参議院では野党が頑張って追及をしていたが、5日を超えても参議院が議決しないときには自動的に衆議院の議決どおりになるということらしく、参議院の議員が不満を漏らしていた。
 それから、100日ごとに、儀式のように国会で緊急事態の宣言が延長されている。もう20回ほど更新されているだろうか。私は、最初の緊急事態宣言のときには高校1年生だったけれども、緊急事態が解除されないまま大学3年生になってしまった。
 事実上のミサイルなんて、一発発射してしまえばもう終わりだと思うんだけど、政府は、某国がミサイル施設を持ち続けているから緊急事態は続いているんだと言い続けている。しかし、5年経ってもミサイルが日本に飛んでくることはなく、さすがにおかしいという世論が高まってきた。そうしたら、東日本大震災の原発事故からずっと発令されていた原子力緊急事態をもちだして、緊急事態の宣言は解除されないと言いだしている。そんなこと言ったら、放射能の半減期の10万年の間、緊急事態のままっていうことになってしまう。その頃まで日本が残っていてくれるだろうか。

 国会議員はずっと国会議員のままだ。緊急事態の間は、国会議員の任期が自動的に延長されるという法律を内閣が自分で作ってしまったからだ。緊急事態には、内閣は自分で法律と同じ効力のあるもの(政令)を作ることができる。国会の事後承認が必要だけど、いつまでに承認を得るという期限は決まっていないから、承認にはずいぶん時間がかかる。そして、内閣が出してきた政令は、与党が数の力でそのまま承認してしまう。政府の言いなりなので、もう三権分立なんて日本にはないのと同じだ。三権分立がなければ、権力は濫用されてしまい、その国には憲法なんてないのとおなじことになる。そして、議員の任期延長の政令は、与党議員からすれば、自分たちの議席が安泰になるのだから当然賛成した。
 時々、国会議員が亡くなってしまったときに補欠選挙がされることがあるようだ。たかが一議員の議席がどう変わろうと、政権交代するわけでもなし、投票率はとても低い。選挙に行くなんて、与党の支持者か、よほどのかわり者だけだと思われている。

 私も大学3年生なので、将来の進路をどうしようか考えているが、できるだけ予備自衛官にならないで済みそうな仕事を探している。医者や看護師になる知人は、将来、予備自衛官にされて、戦地に行かされることを恐れている。海運業の従業員も危ないらしい。戦争になった時に、輸送船として徴発され、乗組員にも自衛官の立場が臨時に与えられて使われてしまうらしい。
 雑誌の特集で、徴発されにくい職業ランキングが出たことがあった。ただ、その雑誌は、政府からそういうものを載せてはいけないという指示を受けて、それ以降、そういうランキングを載せなくなった。政府にとっては、その職業に人気が下がって、徴発できる人材が減ってしまうのは困るからだろう。徴発されやすい職業がカッコいいというドラマやバラエティー番組が多くみられるようになってきたのは気のせいだろうか。そうした、雑誌の内容への介入が検閲じゃないかと言われることもあったが、緊急事態においては公の秩序を害する表現をすることは許されないと言って、正当化されてしまっている。

 どうしてこうなってしまったのか?思い返せば、今から6年ほど前、2016年に参議院の選挙があった。
 そのとき、与党は、野党に対して、衆議院議員が任期満了でいなくなったときに、緊急事態が起こったら参議院の緊急集会が開けなくなる、その場面については任期の延長は必要だろうとか、災害のときに選挙の期日が重なってしまったら、その期日を動かせるようにするには憲法改正が必要だろうと言ってきた。野党の一部が、そりゃそうだと思いこまされて、そこは参議院選挙の争点にはならなかった。反対している方が、ちょっとおかしいというイメージが有権者の間に蔓延してしまっていた。
 その結果、野党は大敗し、改憲勢力が3分の2を得てしまった。与党は、経済政策も失敗していて、GDPも下がっていたのに、マスコミ対策だけで景気がいい雰囲気を作り上げ、勝ってしまった。案の定、与党は選挙で承認を得たと言って、憲法改正を進めようとし、任期延長や選挙の期日延期だけでなく、自民党の憲法改正草案にあったとおり、人権制限ができ、内閣の権力に歯止めのない内容の緊急事態条項でまとめ、強行採決された。
 国民投票では、災害対策やテロ対策のためには緊急事態条項が必要だというイメージだけが報道された。東日本大震災では憲法のせいで復興が進まなかったという実例はほとんどなかったのに。テロだって、刑法に内乱罪とか、騒乱罪とかがあって、刑事事件として対応できるはずなのに。結局、憲法なんて自分の生活には関係ないと思った有権者の半分が棄権し、改憲勢力が投票総数の2分の1を取り、緊急事態条項は国民投票で通ってしまった。
 あの頃、フランスではISのテロで緊急事態宣言がされていた。令状なしに捜索差押えがされ、自宅軟禁され、デモが禁止されていた。その緊急事態宣言も3ヶ月ごとにほぼ自動的に更新されるようになってしまっていた。不当な扱いを受けて、下級市民扱いをされたイスラム教徒たちが反発して、国内が分断され、フランス人権宣言の価値が地に落ちたフランスを見ても、多くの日本人は気にも留めなかった。
 もし、タイムマシンがあって、一度だけ好きな時に戻れるというなら、2016年の選挙の前に戻りたい。そして、お願いだから選挙に行ってくれと、これが最後の民主的な選挙になってしまうから、選挙に行ってくれと叫びたい。常時緊急事態の今では、そんなことすら叫ぶことができないから。

※ このお話は、緊急事態条項が通ってしまったらどうなるかシミュレーションしてみたものです。

 

詳細はこちら

http://www.jicl.jp/hitokoto/backnumber/20160222_01.html

 

憲法が危ない!第3弾

 

「東京新聞」【政治】2015年6月25日 朝刊

 

「安保法案を廃案に」 3万人が国会大包囲

国会前で、プラカードを掲げて安保法案反対を叫ぶ集会参加者=24日午後7時43分、東京・永田町で(平野皓士朗撮影)



集団的自衛権の行使容認を柱とする安全保障関連法案に反対し、廃案や撤回を求める市民や学生、学者らの抗議活動が二十四日、東京・永田町の国会周辺で相次いで行われた。市民ら三万人(主催者発表)は国会を包囲し、粘り強く戦っていくことを誓った。学生や学者もそれぞれ会見を開き、法案の違憲性を強く訴えるなど廃案を求める声が大きなうねりとなってきた。

国会包囲を主催したのは、十五日から平日の日中に、国会前で座り込み行動をしていた市民団体「戦争させない・9条壊すな!総がかり行動実行委員会」。正門前に設けられた仮ステージの周辺は身動きできないほどの人が集まり、横断幕などを掲げ、「戦争法案絶対反対」などとシュプレヒコールを繰り返した。

政府・与党は法案を今国会で何としても成立させようと、二十四日までの予定だった会期を、現憲法下で最長の九十五日間も延長したばかり。

埼玉県所沢市から参加した中村義則さん(70)、美智子さん(70)夫妻は法案について「国民が七十年かけてつくり上げてきた平和を壊すのは許せない」と強調。義則さんは「私たちは今、こういう方法しか表現する力がないけど、粘り強く続けたい」と話した。

毎週金曜日に国会前で安保法案に反対する抗議活動をしている学生らのグループ「SEALDs(シールズ)」は二十四日夕、参院議員会館で会見。中心メンバーらが「本当に戦争法案を止められるという思いでやっている」と訴えた。

集団的自衛権の行使を憲法の解釈変更で認めようとする安倍晋三首相の姿勢に危機感を抱く多分野の学者でつくる「立憲デモクラシーの会」も同日、衆院第二議員会館で会見し、法案の撤回を求める声明を発表した。


引用(http://www.tokyo-np.co.jp/article/politics/news/CK2015062502000140.html)


憲法が危ない!第2弾

 ―法律家6団体の共同声明―

 

 

 

弁護士 髙崎 暢

 

                             2015615


 前回、200人を超える憲法学者が、戦争法案の速やかな廃案を求めて声明を出したことをお伝えしたが、その数は日々増えているとのことです。そして、私も所属する法律家団体が、別紙のとおり、安保法制(戦争法案)の廃案を求める共同アピールを発表した。


憲法が危ない!第1弾

―安全保障法案(戦争法案)が国会で論戦中―

 

 

 

弁護士 髙崎 暢

 

                                 2015612

 

 

 

 

憲法審査会に招致された憲法学者3名がそろって「集団的自衛権の行使は憲法違反」と明言した。そして、200人を超える憲法学者が、戦争法案の速やかな廃案を求めて声明を出した。

戦争法案の憲法的菜正当性は根本から崩壊した。

それでも、安倍首相は、強行採決を含めて、対米公約である戦争法案の成立に固執する。

もし、戦争法案が成立すれば、厳然と存在している憲法9条が完全に空文化する。そのことは、この国が法による支配すら打ち捨てることであり、憲法のない国に住むということになる。

随時、戦争法案の内容を解説し、その危険な本質を多くの人に知らせたい。